2017/04/20

2020/04/14

ゼノンのアキレスと亀を分りやすく解説して考察する

コラム

ライター:

有名なゼノンのパラドックスの一つである、「アキレスと亀」という話が今回の記事のテーマです。「アキレス(足がかなり速い人。)は100メートル先にいる亀に絶対に追いつけない」ということを、ゼノンは述べました。

アキレスと亀は有名な話なので、すでに多くの人がその問題概要と、その数学的な解決を知っているのだと思います。が、今回は、数学的な解決によって終わらず、もう少しこの問題について考察していこうと考えています。実はこの問題と本気で向き合おうとすると、専門家が長年議論を重ねてきた、数々の難題にぶち当たります。

アキレスと亀とはどのような話なのか?

まずは、概要を知らない人のために、アキレスと亀とはどのようなパラドックスなのか、ということを説明しておきます。

昔、アキレスという名の恐ろしく俊足の人と、かわいそうなほどに足の遅い亀がいました。二人はある対決をすることになりました。アキレスが100メートル先にいる亀と徒競走をするというものです。ルールはシンプルであり、アキレスが亀を追い越したら、アキレスの勝ち。亀がアキレスに追い越されなければ、亀の勝ちです。時間制限や、距離の制限などはなく、アキレスが亀を追い抜きさえすればアキレスの勝ちです。当然、誰もがアキレスが勝つと思っていました。アキレスも「お前なんかすぐ追い抜いてやるよ!」と自信満々でスタートをきりますが、不思議なことに追いつけないのです。

なぜか。アキレスが100メートル先の亀のいるところにたどり着くころに、亀はのろのろとではありますが、少しは進んでいるのです。例えば10メートルとか。今度はアキレスは10メートル先の亀を追いかけることになりますが、10メートル先の亀のいたところに着く頃には、亀はそれより1メートル先にいます。また、その1メートル先の亀の位置にたどり着いたときには、亀は0.1メートル前に進んでいます。これの繰り返しで、アキレスは亀のもといた位置まで行くことはできても、のろのろと、でも確実に前に進んでいる亀に追いつくことはできないのです。

この理論によれば、亀のスタート地点がアキレスよりも前であれば、アキレスは亀に勝てないことになります。ここで、アキレスの速度がどんなに早かろうが、問題にはなりません。

追いつくことすらできないのならば、追い越すことなど到底無理だ、というお話なのです。

一見理論的には正しそうでありますが、現実問題、アキレスは亀に追いつきますし、追い越すことができます。この現実とは違うという点がミソであり、この問題がパラドックスたるゆえんです。

つまり、この理論には誤りがあるのですが、なかなかそれを指摘するのは難しいように思います。実際、この問題にはいくつもの解釈がありますが、全ての人が納得できるような説明はまだなされていないらしいのです。古くからある難問の一つとして、現在も残されています。

このゼノンの論に如何にして反論するべきなのでしょうか?

数学的な答え?

とてつもない難問である本問ですが、数学的な解決は意外と簡単なようです。いかに数学による一般的な解法を示します。

前の亀のいた位置にアキレスがたどり着いたときに、亀は少し前にいる。その少し前にいる亀の位置まで、アキレスがついたときには、亀はやはりすこ〜し前にいる。以降これの繰り返しが無限に続くのですが、その繰り返しにかかる時間は無限ではない。もっというと、この繰り返しに必要な地理的な長さも無限長ではない。アキレスが100メートル進んだときに亀は10メートル、アキレスが10メートル進んだときに、亀は1メートル、アキレスが1メートル進んだときに、亀は0.1メートル、、、。これを元に、アキレスの進んだ距離Xを数で表すと、

$$X = 100 + 10 + 1 + 0.1 + 0.01 + 0.0001,… = 111.11111111…(メートル)$$

となります。これは数学的には、無限回の試行を行うのならば、その和はある有限な値に収束します。また、アキレスが100メートルを10秒で走るのならば、10メートルは1秒で、1メートルは0.1秒で走ります。これを加味すると、この繰り返しに要する時間Tは、

$$T = 10 + 1 + 0.1 + 0.01 + 0.001 + 0.00001,… = 11.1111111…(秒)$$

です。これもまた、無限の試行によれば、ある有限な値に収束します。亀とアキレスの「追いつき合戦」は無限回行われますから、追いつくのにかかる時間も、追いつかれるのに必要な距離も、どちらも有限であるのです。

さて、このまま考えを進めてもよいのですが、さらにわかりやすくするために、少しだけ問題を変えて、アキレスが90メートル先にいる亀と徒競走をするという構図を考えます。アキレスが90メートル先の亀のいるところに至った頃に、亀は9メートル先にいる。9メートル先の亀に追いついたときには、亀は0.9メートル先にいる。以後繰りかえし、、、。という構図です。するとアキレスが亀に追いつくのに進む距離X’は、

$$X’ = 90 + 9 + 0.9 + 0.09 + 0.009 + 0.0009,… = 99.99999…(メートル)$$

となり、99.999999…メートル地点で追いつきます。これは等比数列の和であり、この足し算を無限回行うという無限等比級数の概念を用いると以下のようになります。

$$X’ =\displaystyle \lim_{ n \to \infty }\sum_{ i = 1 }^{ n } \frac{90}{10^{n-1}}=100$$

よってX’は100に収束することになるので、100メートルの地点において、アキレスは亀に追いつくという計算になります。また、追いつく時刻T’については、アキレスが90メートルを9秒で進むと考えると、

$$T’ = 9 + 0.9 + 0.09 + 0.009 + 0.0009 + 0.00009,… = 9.99999…(秒)$$

ということになります。これもまた、無限等比級数であり、

$$T’ =\displaystyle \lim_{ n \to \infty }\sum_{ i = 1 }^{ n } \frac{9}{10^{n-1}}=10$$

となるので、スタートから10秒後に追いつく計算です。

よって、亀とアキレスの追いつき合戦が無限回行われた後、アキレスが100メートル、10秒走った瞬間に両者は並び、つぎの瞬間に追い越すので、アキレスの勝ちというわけです。

数学的な考え方で行くと、アキレスと亀の追いつき合戦は無限スッテプ行われるけれど、それにかかる時間と距離は有限であるから、追いつくことができるということになります。そして、それは無限ステップ目で追いつくのです。

ちなみに、無限級数を持ち出すまでもなく、小学生や中学生で勉強する、「速さの問題」の考え方を用いても同様に追いつく時間と、追いつく地点を求めることが可能です。「弟が5分前に家を出て、兄が、自転車で弟を追いかける」というような問題と同じ構図であり、この場合、兄は必ず弟に追いつくようにできています。

数学的考え方の問題点

数学的には、あっさりと解決してしまった本問ではありますが、まだまだ現実的な(数学的でない)疑問点は残されています。ここでは、思いつく限りの疑問点や数学的解答に対する反論をを上げていきます。

少々哲学的な話になりそうです。もともとこの問題自体、哲学者の間でも扱われている問題ですので、そうなっても仕方ないのでしょうが。

そもそも無限回の試行が現実的に可能なのか?

まず、考えるべきは、仮に無限回の追いつき合戦を繰り返すことによって、追いつくとしても、そもそも「無限回の繰り返しが現実的に可能なのか」という問題です。我々の感覚では、無限回の繰り返しを想像するのは容易ではありませんし、それはできないようにも思えるかもしれません。しかし、無限回の追いつきを乗り越えなければ、アキレスは亀に追いつくことができませんし、実際には追いつき追い抜きますから、やはり可能なのだ、と考えることもできます。無限回の試行を見ることはできなくとも、無限回の試行の結果(アキレスが亀を追い抜く)を見ることができるので、無限回の試行が行われいると信じることもできます。

9.9999… = 10は成り立つのか。

9.999999…は等比数列の無限個の和であり、10に収束することは前の説で示したとおりです。しかし、現実的に9.999999…=10は言えるのかという問題があります。9.9999999…は9がいくつ続こうと、やっぱり10ではない気がしてならないのです。小数点以下の9が無限個あるとしても、やはり10ではない。実はこの話は、数学者たちを悩ませてきた、無限小や無限大の問題に関わってきています。

そして、よく学校の教科書のコラム欄や、webページでもしばしば扱われるものですが、私は今までまだ一度も完全に納得できる論理に出会ったことがありません。もし、読者の方でこれについて、自説をもっていて、私を納得させられる自信のある方がいたら、是非何らかの形で連絡が欲しいところであります。

1メートルは無数の点からなっているのか?

そもそも、この問題は、1メートルは無数の点からなっていると仮定するところから始まります。無数の点が集まって、線となり、無数の線が集まって面となることは、高校数学などでも学ぶことです。そして、1メートルだろうと、0.5メートルだろうとやはり無数の点によって構成されている。0.01ミリメートルだって、無数の点の集まり。それは無数であるので一向に減ることはありません。「0.5メートルを構成する無数の点はは1メートルを構成する無数の点の半分だから、減っている」という反論があるかと思いますが、0.5メートルを構成する点もまた無数であるから、やはり無数であることに変わりはない。そもそも、無数を半分にしたって、文字通り無数なのですから、いくら数えても数え終わらない。宇宙を覆い尽くすほど大量の紙を用いて、その個数を書き表わそうとおもっても、まだそのごくごくほんの一部しか書けていないというわけです。

さて、1メートルが無数の点からなっているとするならば、いくらアキレスといえども、無数の点を通過することはできないから、亀に追いつくことができません。というか、そもそも動くことすらできない。なぜなら1寸先に行くにも、無数の点を通過しなくてはならないからです。アキレスと亀の二人は徒競走を始めた途端、固まってしまいます。しかし本問ではさらに、時間も無数の点の集まりであると仮定しています。

1秒というのは長さを持たない、無数の時間の点の集まりです。ということは、いくらアキレスといえども、無数の距離的な点を通過することができないのと同じ理論で、無数の時間の点を通過することもできないはずです。つまりアキレスは存在することすらできない。亀も存在できない。なぜなら、0.1秒後の世界に行くにしても、その世界までは無数の時間の点があるからです。こうなると、徒競走以前に、存在すら怪しい状況ですから、問題がおかしいことに気づくはずです。

つまり、本問における、時間や距離が無数の点から成るという仮定が現実とはずれているので、現実では別のことが生じるというような論理です。

現実的に1メートルは無数の点から成ってるわけではない?

ここで、時間が無数の点から成っているかどうかという話は、実感がわかないので(というかあまりにも難しい)ので一旦置いておきます。現実の長さが無数の点から成っているのか、ということについて考察したいと思います。

本問でも1メートルは無数の点から成るという、前提の存在によって、アキレスは亀にいつまでも追いつけないのであります。1メートルが有限の数の点で成り立っているのならば、点から点に移るスピードの違いによって、両者の間のスピードの差異が言えます。そうなると話は代わり、アキレスと亀が同じ点上に存在することができ、しばらくするとアキレスは亀の前に出ることができます。

1メートルを有数の点から成っていると仮定すると?

実際、世の中の物質は原子によって構成され、その数は有限であるとされます。アキレスと亀は、グラウンドで徒競走をする場合、グラウンドの土も当然物質であり、原子によって構成されているので、その数は有限であるように思います。ということはそもそも、アキレスと亀の間には無限の点があると仮定すること自体が誤りなのか?

必ずしもそうはならないところが、面白いところです。確かに、アキレスと亀の間は無数の点から成っている訳ではなく、1メートルが1億個の粒(ブロック)からなっている可能性もあります。しかし、その粒は一つ一つが大きさを持っているから、それが1億個集まって1メートルという長さを構成できるのです。粒が大きさを持っているということは、やはり我々はその上に、無数の点を仮定してしまいたくなります。1メートルが無数の点であると仮定したのと同じように。その粒自体がやはり、無数の点から成っているではないか?という指摘が生まれます。つまり、アキレスは亀をその点の端で亀に追いつき、その点のもう一方の端で亀を追い越したと考えてしまうということです。

そして、科学的に考えても、人間は物質の最小単位についてまだ厳密に理解している訳ではありませんから、この問題は(現時点では)解決しそうにもありません。

確率論においても似たような問題がある

実は確率論の問題でも似たような問題があります。例えば次のような問題があるとします。

0~1で構成された数直線に向かってダーツを投げるとする。このとき、中間地点である0.5という点にダーツが刺さる可能性はいくらか?

このとき、数学的に0~1の間に点は無数にあるので、

$$\frac{求めたい場合の数}{起こりうる場合の数}=\frac{1}{∞}=0$$

となります。つまり確率は0。0.5には絶対に刺さらないという結果になります。しかし、それはおかしい。なぜなら実際0.5に刺さることもあるからです。ということは数学的には0と答えがでたことが現実では起こる。ということになりそうです。実際に0.5に刺さったのならば、その事象が発生する確率を0ということはできない。しかも、この理論でいくと、どの点にも刺さる可能性は0なのです。0.1も0.2も指し示したい点が1点である限り、そこに刺さる可能性は(計算上)0%です。

確率論でこのような問題は、区間で考えます。点ではなく、そこにわずかでも幅があれば、そこに刺さる確率を計算することができるからです。

そして、ここから発展させてもっと現実的な問題を考えますと、同じような考え方で、自分が地球上のある一点にいるとするのならば、ここにいる可能性は0%ということになります。

なぜなら、世界は無数の点で構成されていて、自分はその上の1点に立っているわけですから、同じ論理で自分が世界にいるのはおかしいということになります。しかし、自分はここにいる。ここに潜む問題と同様の問題がアキレスと亀のパラドックスにも潜んでいるように思います。

まとめ

ということで、数学を用いるとアキレスと亀のパラドックスに反論することができましたが、現実問題考えれば考えるほど、わからなくなる問題です。記事内でも述べましたが、個人的には、距離や時間が無限の点からなるという前提のもとで、徒競走をはじめさせたら、二人はわずかな時間も停まってすらいられないのではないか?という点から、解決の糸口があるかのように感じています。

しかし、この問題を考えようとすると、「無限論、無限集合論、時間・空間問題、、、」など数々の難題が待ち受けているということがお分りいただけたかと思います。これらは、数学者達の間でも定義の分かれるような問題であり、申し訳ありませんが、ここでは解決できそうもありません。

ついでに、ゼノンは他にも面白いパラドックスを、提唱していて、かの有名な「飛んでる矢は止まっている」や「二分法」などがあります。どれもこれも、個人的にはなかなか面白いテーマだと思いますので、興味のある方は、是非一緒に考えて欲しいです。そして、気づきなどがありましたら、気兼ねなくご連絡ください!

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