3名から始まったAI活用への挑戦 – ダイハツ工業 車両性能開発部のAI人材育成の取り組みをインタビュー

3名から始まったAI活用への挑戦 – ダイハツ工業 車両性能開発部のAI人材育成の取り組みをインタビュー

あらゆる業界でAI技術の事業活用が進んできた昨今、サービスや業務フローとAI技術を組み合わせて、プロジェクトを推進したり実装したりする「AI人材」のニーズが非常に高まっている。その中でも、最もAI活用が進んでいると言えるのが自動車業界だ。生産ラインの効率化をはじめ、自動車を構成する部品の性能解析、試験、など活用できる領域は広い。
今回は、担当者レベルから業務へのAI活用を実践し、全社規模の取り組みまで波及させたダイハツ工業 車両性能開発部のキーマン佐野氏太古氏と、社内の人材育成の一環でE資格取得後、それぞれの現場でAI活用を牽引している木山氏飯田氏にお話しを聞くことができた。

始まりはたった3名から – 業務効率化を目指してAI活用を実践

動力制御開発室 佐野氏
– まずは、ダイハツ工業の車両性能開発部の業務内容を簡単に教えてください。

佐野氏
車両性能開発部は、車全体の性能の品質向上を主な業務としています。車の機能やパーツごとに複数の室に分かれており、私が所属する動力制御開発室は 約200名が所属し、主にエンジン性能に関する業務を行っています。


– 動力制御開発室でAI活用に着目した最初のきっかけを教えてください。

佐野氏
エンジン開発の業務効率化にAI技術を使えるのではないか、と思ったのがきっかけです。エンジンの性能を左右するパラメーターは数万個あります。従来は、新規に開発するエンジン仕様と過去の開発データを照らし合わせて、性能に関わるパラメーターを特定し、最適なパラメーターの組み合わせを導くといった工程を人が担っていました。
求められるエンジン性能が上がってきた昨今、開発スピードを上げつつ高い品質を担保するために、業務効率化を図る必要があると考え、AIでの解決を目指して2017年にプロジェクトをスタートしました。


– プロジェクトはどういった形で進みましたか?

佐野氏
業務効率化のプロジェクトは動力制御開発室の3名でスタートしました。当時はAIに関する知識がなかったのですが、「AIを使ってエンジン開発の業務効率化をする」ことを目標に勉強しながら取り組みました


– 3名で始まったプロジェクトが今や部門、全社レベルのAI活用やAI人材育成の取り組みに波及したとのことですが、きっかけは何だったのですか?

佐野氏
業務効率化の成果については、部内に進捗報告や成果報告という形で継続的に提示しており、徐々に一定の評価を得られるようになりました。


太古氏
全社レベルの取り組みにするための人事部とのコミュニケーションは2019年から始め、1年くらいかけてAI活用や人材育成に取り組む価値を説明しました。定量的に効果を示すのも大事ですが、AIができることを実際に体験してもらうなど、愚直に説明することが大切です。
結果として2020年に全社AI研修を展開しました。また、2022年1月からDX推進室にて、全社レベルのAI活用を支援しています。


※太古氏の取り組みに関しては、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)のウェビナーレポートで公開されているので興味のある方はぜひ参照してほしい。

G検定・E資格を活用したAI人材育成

– AI人材育成の一環として「G検定・E資格」を採用したのはどういった経緯だったのでしょうか?

佐野氏
部内で様々なAI研修を作成して展開していたのですが、知識やスキルが定着したのかが曖昧だったので、勉強した結果の証明として、JDLAの資格取得をゴールとしました。資格取得自体が目的ではありませんが、皆が同じ資格に向けて勉強し、知識やスキルレベルを揃えることには意味があると考えています。


– どういった職種、役職の方にG検定、E資格取得を推奨していますか?

佐野氏
G検定はマネジメント職、E資格は開発を担当する実務者に推奨しています。


– 動力制御開発室の人材育成の取り組みは順調ですか?

佐野氏
育成計画以上に好調に推移しています。2020年の秋ごろからG検定・E資格取得を推奨する取り組みがスタートして、パワートレーン分野だけでも 2021年の年末時点でG検定合格者が18名、E資格合格者が8名となりました。現在も対策講座を受講中の社員が多数いる状況です。


– 社員に学習を進めるにあたって工夫している点はありますか?

佐野氏
資格取得は、自分から手を上げるパターンと部門で指名して取得を促すパターンがありますが、いずれにせよ、業務とは別に資格取得の時間を確保してもらう必要があります。
すでに合格した社員が勉強中の社員に学習のアドバイスをするようなフォロー体制の構築を進めています。



ここまで、部門のAI人材育成を推進する佐野氏・太古氏に話を聞いてきた。現場の3名からスタートした業務効率化プロジェクトが部門レベルのAI人材育成に発展した、まさにボトムアップによるAI人材育成プロジェクト立ち上げの成功事例だ。熱意をもって業務課題に取り組むこと、時間をかけてAI活用の重要性を発信・浸透させることの重要性を認識できたと思う。
引き続き、E資格を取得してそれぞれの所属グループでAI活用を推進している木山氏と飯田氏にインタビューした。

社内へのAI活用の輪を広げるために – 動力制御開発室 木山氏(E2021#2合格)

動力制御開発室 木山氏
– 普段の業務内容とE資格に興味を持ったきっかけを教えてください。

木山氏
車両性能開発部に所属し、ハイブリット用エンジンの制御開発を行っています。
AIには世の中のブームもあって個人的に興味がありました。また、エンジンに関して自動車業界が電動化に進んでいく中で、エネルギー効率の向上が喫緊の課題であり、AIを活用して課題解決できないかと考えていて、E資格通じてAIを勉強してみようと思いました。


– E資格を取得して良かったことはありますか?

木山氏
AI活用に対する心理的なハードルが下がりました。自分がAIを学んだことで、グループのメンバーに対してもAI活用の取り組みを勧めやすくなり、今では、グループ内でAIを活用に関する議論を定期的に行うようになりました。
また、AIとは直接関係のないところですが、業務上csv形式のデータを大量に扱うので、Pythonのデータ前処理や分析手法を学べた点は非常に役に立っています


– 今後のAI活用に向けた意気込みを教えてください!

木山氏
グループ内のAI活用の輪をどんどん大きくしていきたいです。昨年、ダイハツ工業から 新開発の ハイブリット システムを搭載した新商品を発売しました。まだまだやれることはたくさんあるので、AI活用でダイハツ工業のハイブリット車開発の推進力になれればと考えています。


E資格取得が、グループのAI活用のきっかけに – 安全性能開発室 飯田氏(E2021#2合格)

安全性能開発室 飯田氏
– 普段の業務内容とAIに興味を持ったきっかけを教えてください。

飯田氏
安全性能開発室に所属して、車の衝突安全性能の解析・評価を行っています。
AIには以前から興味があって、3年前くらいから書籍を買って独学したり、Kaggleコンペに参加したりしていました。E資格もいつか取得したいと思っていたところ、社内で開催されたKaggleコンペで上位に入賞したことがきっかけで、部の人材育成枠でE資格を目指せることになりました。


– E資格を取得して良かったことはありますか?

飯田氏
今まで安全性能開発室ではAI活用は全くしていなかったのですが、自分がE資格を取得したことで、室内でAIを使って何かできないかと考えるきっかけになることができました
今は、車が衝突した影響をシミュレートした動画を、人の目ではなくAIで解析するプロジェクトを進めています。車の破損具合をAIで判定する画像解析のタスクです。これによって、作業の効率化と解析のアウトプットの品質統一化に貢献できると考えています。
個人的には、Kaggleに引きつづき挑戦中ですが、E資格の勉強でアルゴリズムへの理解が深まり、学習モデルの精度改善がやりやすくなりました


– 今後のAI活用に向けた意気込みを教えてください!

飯田氏
安全性能開発室でのAI活用の取り組みを盛り上げて、様々な業務をAIで解決できるということを広めていきたいです。


終わりに


今回は車両性能開発部でAI人材育成を推進しているキーマンと、実際にE資格を取得して現場でAI活用を実践しているエースのそれぞれに話を聞いた。「業務の効率や品質を上げていくための熱意」と「AIを活用することは目的ではなく手段であることが徹底されていること」が、AI活用・人材育成の取り組みが上手く進んでいる要因だと感じた。
DX/AI活用の推進に悩む担当者の参考になることを願う。
株式会社AVILENが提供しているG検定、E資格の対策講座は、今回記事でご紹介したダイハツ工業株式会社車両性能開発部にも採用されている。興味のある方は以下のサイトからサービス内容を確認してほしい。


全人類がわかるG検定対策講座:https://avilen.co.jp/course/g-certificate/
全人類がわかるE資格講座https://avilen.co.jp/course/e-certificate/