2020/07/28
【独占】テービーテック金井社長、製造業支援はAIアルゴリズムだけでは不十分
日本国内で初めて製造業特化型のデータサイエンス人材育成に乗り出した企業がある。30年以上にわたり大手自動車メーカーの基幹システム開発などを手掛けているテービーテック(愛知県豊田市)だ。
テービーテックは2019年5月から製造業特化型のデータサイエンスセミナーをスタート。すでに中部地区で第1、2期を開催し、卒業生を輩出している。現在は中部に加え、東京でもセミナーを開催している。
目次
「データサイエンスアワード2019」のファイナリスト
製造業特化型セミナーへの参加者は全国津々浦々から、製造業のみならず、さまざまな業界・業種で活躍するエンジニアやビジネス職のビジネスパーソンたち。
テービーテックは2020年6月、データの分析・活用で国内のビジネス・産業の発展に大きく貢献をもたらしたプロジェクトや企業・団体を表彰する「データサイエンスアワード2019」(データサイエンティスト協会主催)のファイナリストに選ばれている。
日本初の製造業特化型データサイエンティスト育成
データサイエンスセミナーは2社が共同で運営。カリキュラムの作成、講義はAI教育で定評のあるキカガクが、セミナーの運営は、製造現場の知見を持ち、不良部品などを検知するAIの開発を手掛けるテービーテックが担当している。
テービーテックの金井恭秀社長はこのほど、AVILEN AI Trendの独占インタビューに応じた。金井氏は製造業のAI活用について、「正確なセンシングによる測定と解析、そして現場で作業される方の理解がうまくかみ合わないと、強力なアルゴリズムができたところで、上手に活用いただけず、製造原価が高いだけの設備になってしまいます」と述べ、製造業へのAI活用には、AIモデルの構築だけでは不十分で、利用する現場に至るまでのAI開発ライフサイクルの重要性を強調した。
金井氏の発言は次の通り。
テービーテック本社は愛知県豊田市のトヨタ自動車本社から車で10分ぐらいのところにあります。弊社ではこれまでに、トヨタ自動車様の基幹システムや現場で活用されるシステムを多く開発してまいりました。
自動車製造業を中心に30年以上システム開発を手掛けているため、製造業の現場の知見があることを強みに、製造業特化型のデータサイエンティスト育成講座を商品として提供しています。
この育成講座でAIを活用できる人材になっていただくことはもちろんですが、日本の産業でありがちの1社で閉じてしまうことがないように、異なる会社・業種の参加者のつながりも重視しています。セミナー卒業後もつながりは継続され情報交換など行われています。
また、これまでのデータサイエンスセミナーの取り組みに対して、今年6月、データサイエンティスト協会が主催する「データサイエンティストアワード2019」で、データ分析・活用で国内ビジネス・産業の発展に貢献したとして、ファイナリスト3社のうちの1社として選ばれたことは非常にうれしく思っています。
画像解析の課題-撮像スタジオ開設
――手掛けているAI開発について教えてください。
自動車製造業は、画像解析と時系列解析の二つが主な課題です。特に画像解析を活用することに関心を持たれている企業様は多く、トヨタ自動車様を含めご相談をいただいています。お客様の悩みどころとしては「カメラと照明を買ったが撮影がうまくできない」「Pocではうまくいったが号口(生産)ラインで性能が出ない」「運用開始したがメンテナンスが思っていた以上に大変」など様々で、内容に応じて柔軟に対応させていただいております。
その中で「撮影」に課題を抱える企業様は多く、度々ご相談をいただいております。画像解析において、正確な撮影は必要不可欠です。後処理でなんとかなることもありますが、基本は正確に撮影することが大切です。AI開発はデータの準備が80%などと言われたりしますが、入力データの推敲が不十分な状態でアルゴリズムを組んでもイマイチな結果しか得られないこともあり、「(環境を含め)どのような条件で撮影したのか」が課題になることが多いです。
このため豊田市のテ―ビーテック本社に撮像スタジオを開設いたしました。製造業向けの画像解析の環境をテービーテックで準備し、これをお客様にご活用いただくことを進めています。この撮影スタジオはテ―ビーテックと設備に詳しい豊田通商様、製造現場のシステムに詳しいトヨタシステムズ様の3社で正確な撮影ができる環境を構築し、モデルの開発で重要になる撮影に関する課題をこの撮影スタジオで解決できるようになることを目指しています。
具体的には、現在、トヨタ自動車様からエンジンやシリンダーヘッドの傷の検知、ボディの外観のチェック、鋳造部品のバリ検出などのご要望があります。照明やカメラ機材でも悩んでおられるので、今回開設した撮影スタジオを活用いただき、テ―ビーテックも一緒になって課題解決のお手伝いさせていただいております。
号口運用が最終目的-実装だけでは不十分
――産業界でのAI活用についてどう考えますか?
ディープラーニング、機械学習はブーム継続中でフォーカスが当たっていますが、製造業での目標は号口(生産)設備に実装して成果を得ることです。
そのために必要なこととして、当然のことながら実装で目標スコアを達成できることが一つ。もう一つ重要なこととして、実際に運用する現場の方の理解がある上で上手に使っていただけることです。
これが噛み合わないと期待する効果が得られません。効果が十分得られなければ強力なアルゴリズムができたところで、製造原価が高いだけの設備になり、ゆくゆく利用されない残念なシステムになります。
運用開始すると学習データに含まれない新しいデータが発生するため一般的にモデルの推論精度が段々と劣化していきます。機械学習では再学習をすることで精度の向上が期待されますが、実際には再学習で思ったほど精度向上しないことがあります。また再学習したら再学習前と同じ結果が得られなくなったということもあり得ることです。
例えば再学習前の1カ月前のモデルと直近のデータまでを含めて再学習したモデルで同じ入力データでも推論結果が異なるということですが、これは利用される方からすると非常に使いにくく問題です。このようなことが発生しないような実装方法、考え方も運用においては必要になり利用される方の理解も重要です。
「最新のアルゴリズムで新しい解析ができた」というのは良いことですが「どのように業務に活用するのか、何を得るのか」について、既にご提供している製造業特化型のデータサイエンティスト講座や撮影スタジオの活用、また今後撮影スタジオを利用したアドバンスセミナーも同じですが、お客さまと一緒になって作り上げていきたいと考えています。
金井恭秀氏
テ―ビーテック株式会社
代表取締役社長
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