2020/09/15
【独占】みずほ銀・大櫃氏、イノベーション企業を積極支援-11月に大規模イベント
人工知能(AI)やIoT、バイオ・ヘルスケアなど、さまざまな業界のイノベーション企業の取り組みを支援している金融機関がある。みずほ銀行だ。
みずほ銀行 執行役員 イノベーション企業支援部長の大櫃直人氏はこのほど、AVILEN AI Trendの独占インタビューに応じ、「たくさんの方が成功者になっていかないと、エコシステムは充実していかないと思いますし、シリアルアントレプレナー(連続起業家)も出てこないと思います」と指摘。IPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)も含め、さまざまな形でイノベーション企業に対する支援を積極的に展開していく姿勢を示した。
大櫃氏はその上で、11月26、27両日に開くスタートアップ支援イベント「M’s Salon コネクト」(第10回)では、例年と同規模となる約1000のビジネスマッチング商談の実現を想定していることを明らかにした。
目次
イノベーション企業への支援
20数社のIPOをサポート
――イノベーション企業支援部の設立とミッションを教えてください。
4年前にスタートをさせました。私が渋谷の支店長を3年間やらせていただいて、お取引いただいた約220社のうち、今20数社が上場しています。メルカリ社やマネ―フォワード社などがお客さまでしたが、とても運のいい時期に渋谷にいられたと思っています。
その流れで、最初スタートアップ支援ということで、6人でイノベーション企業支援部が産声を上げました。その時、現佐藤康博会長から言われたのは「スタートアップでブランドを立てることもさることながら、大企業がオープンイノベーション考える時に、ファーストコール(真っ先に連絡)がくるようにすべきだ」ということです。
銀行が今後、デット・ファイナンス(借入による資金調達)向けビジネスだけでやっていけない時代がくる中で、やはり、グローバルでエクイティ・ファイナンス(株式発行による資金調達)向けビジネスをずっとやっていくことを考えた時に、スタートアップにおけるエクイティ・ファイナンス向けビジネスはとても大事です。
4年をへて、今大きな部隊になってきているのですが、そもそもスタートアップ支援から始めました。
2年目に、オープンイノベーションということで、スタートアップ企業と大企業を結び付けるという、ビジネスマッチングを始めました。
さらにはグローバルで、いろいろな企業を大企業に紹介したり、あるいはスタートアップに紹介したりということも始めました。
ビジネスマッチング、融資、エクイティ投資、M&Aでも支援
大企業とスタートアップを結び付けるオープンイノベーションは、両社のカルチャーギャップが大きく実証実験(PoC)や、ビジネスマッチングには進むのですが、IPO以外のイグジットの活性化が必要な中で、M&Aはもっと増えないといけないのですが、なかなか進まないなというのが、現実感としてあります。
去年の夏から、いわゆる超大企業とスタートアップの間にいる、マザーズや東証1部に駆け上がっているような成長途上の上場企業、特にIT系とヘルスケア、バイオ系が多いのですが、に向けてもサポートを開始しました。ここが今、M&Aの主流になってきているということです。
そういう意味では、スタートアップの支援をベースに、ビジネスマッチングや融資、さらにはエクイティ投資、さらにはM&Aのようなことを展開としては広げていっています。
今年11月にビジネスマッチングイベント開催へ
これまでは、ほぼ週1本のペースでビジネスマッチングなどのリアルなイベントを開催していたのですが、コロナ禍、リアルなイベントの開催が難しい状況です。そこで新たに、ビジネスマッチングや、VCマッチングなどをオンラインイベントとして開催しています。
昨年は2日間で1000商談以上をセットする大規模なビジネスマッチングイベントを開催したのですが、今年の11月にも開催を予定しています。企画時点ではリアルで開催する予定でしたが、場合によってはオンラインに切り替えることも含めて、準備しております。
実は、事前に過去ご参加いただいた会社さまや、新しく参加のご希望をいただいている会社さまなど、いろいろな会社さまに対してご意向を確認したのですが、多くの会社さまから参加したいというご意向をいただきました。
数カ月程前に、みずほ銀行の産業調査部とわれわれで、大企業に緊急アンケートを取ったのですが、大企業のオープンイノベーションに関わる対応は、コロナ前と何ら変わっていませんでした。
DXが進む中で、スタートアップとの連携、オープンイノベーションを進めていかなければならないという気運がさらに高まったと感じています。
M&A、案件も進行中
去年の暮れ頃から、テック系企業のM&Aによるイグジット支援にも力を入れ始めています。
今年3月、大企業とスタートアップ企業のM&Aニーズをマッチングさせる「オープンイノベーションプラットフォーム」をリリースしました。
今複数の案件が進行中です。
その中には、AIの会社と、広告系のテクノロジーを使った、いわゆるアドテクの世界の二つが多いという感じですね。
結局、30億円を超えると、買い手が一気に減ります。30億円を出せる会社はそう日本の中でも、ないですから、そういう意味で、10億~20億円ぐらいが多い印象です。
逆に言うと、それを超えてくるような資金調達をする会社は、もう戻れないと思うので、腹を決めてIPOをやらないといけないということだと思います。そのへんに分岐点がくるのかと思っています。
有名AI企業がイグジット相談に
――AIスタートアップ企業の最近の動向は?
新型コロナウイルス感染症が広まる前に、去年の暮から今年の1月頃にかけて、立て続けにAIの有名どころの会社がご相談に来られました。
AIという言葉は踊っていますが、AIはツールです。AI自体が何か産業として生み出すものではなくて、何かの産業にAIをまぶすことで、新しいものが生まれてくるとか、付加価値が高まるのだと思います。
各社とも、共通していると思うのは、大企業との取り組みの実証実験(PoC)は、まあまあうまくいっていますが、本格導入、実装には、なかなか至らないということです。
なぜ至らないかを突き詰めると、日本の大手企業は、ほとんど外部ベンダーをSES(システムエンジニアリングサービス)のように使っていて、そのシステムを分かる人をあまり抱えていないという状況です。
このため大手企業は、(外部ベンダーと)会話が通じなくて、なかなか進んでいかないという課題を抱えているようです。
例えば、AIスタートアップ企業の側で、(会話できる)SEも抱えれば、目的は達せられのでしょうが、イグジットの相談に来られた会社からすると、「自分たちは、(会話できるSEなどの)人事管理をするために会社をつくったのではないので」ということになります。
とがったことをやりたいと思って会社をつくって、精鋭15人でやっていますとか、精鋭20人でやっている中で、「SEを雇って、100人とか150人の会社にするというのは、そもそも考えていたことと違います」という話です。
「それなら、最先端で自分たちのやりたいことをやらせてもらえるなら、どこか大手の傘下に入ってもいいのではないか」とご相談に来られたということです。
――スタートアップ企業の中に、大企業の傘下入りを模索する動きが増えていると?
そうですね。起きてきていますね。
IPO目指すなら経営チームづくり徹底を-成功率高まる
――AI関連のイノベーション企業へのメッセージは?
例えば中小企業をイメージしてみると分かると思うのですが、とっても優秀な社長が一人いれば、力を蓄えて、それを再投資に回しながら、人を教育して、また成長しながら、ということできたと思うのです。
ところが、今、VCからお金を調達するというのは、逆Jカーブのような急成長を求められますので、そうすると社長一人じゃ絶対に無理だと思うのです。急成長期に社長一人だと会社組織がひっくり返りますので、そういう意味では、IPOを徹底的に目指して、資金調達やっていくんだという人については、やはり遠回りかなと思っても、チームづくり、経営チームづくりを徹底的にやるということが大事だと思っています。
例えば、とっても優秀なAIの技術者が、一人、二人で会社をつくったとしても、そこにビジネスデベロップのできる人とか、お金集められる人が集まって初めて、チームとして強いチームになっていくと思いますので、最初は経営チームをつくることに徹してやれる人は、企業として大成していく確率が高まるのではないかと思っています。
一方で、最初から「M&Aでもいい」と思っている方は、とりあえず一人で走ってみて、階段を上るということを前提に、そこそこ上ったところで、IPOもできるのだったら、そこから考えればいいと思います。
自分がどちらに向いているかということが分からない方には、まず階段をお薦めしています。「自分はもう徹底的に、もうIPOしかないんだ」と腹を決めている方、もっと言うと、「人を集める力、巻き込む力がある」と思える方は、さきほどのIPO、逆J、経営チームをつくるということに徹すると、成功確率が上がるのではないかと思います。
結局、テクノロジーも、ビジネスモデルも、ずっと勝ち続けるのは難しいのではないでしょうか。そうした時に、会社をどんどんどんどん磨き上げられる方は、勝ち残っていくのではないでしょうか。磨き上げるということは、やはり経営チームが強いということが、大事ではないかと思っています。
IPO・M&A両方の活況が大事
やはり、たくさんの方が成功者になっていかないと、エコシステムは充実していかないと思いますし、シリアルアントレプレナー(連続起業家)も出てこないと思います。
その意味では、IPOに偏っていては駄目なのです。IPOとM&A両方が活況を呈するというか、盛り上がりが出てくることが、このエコシステムを回していくためにとっても大事だと思っています。
大櫃直人(おおひつ なおと)氏
株式会社みずほ銀行
執行役員
イノベーション企業支援部長
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