2020/08/18
2021/10/05
【独占】AIで自動運転系を支援、E資格・G検定合計299人保有-富士ソフト・八木氏
海外で米グーグル傘下のDeepMind社がディープラーニング(深層学習)を用いて開発した囲碁AI「Alpha Go(アルファ碁)」が人類最強と言われた棋士に勝利したのが2017年。国内では日本ディープラーニング協会(JDLA)が設立された年だ。
同じ2017年、取引先企業に提供するサービスとして本格的に人工知能(AI)をラインナップし、その一環として社内にイノベーション統括部を新設した企業がある。独立系システムインテグレーター(SIer)の富士ソフトだ。
富士ソフトの技術者約7000人のうち、AIに携わる人材は100人。社内でJDLAのE資格とG検定の取得も奨励しており、2020年6月末現在、E資格の保有者は36人、G検定(2020#2含まず)に至っては263人にのぼる。
富士ソフトの執行役員で、17年にイノベーション統括部を立ち上げた八木聡之統括部長はこのほど、AVILEN AI Trendの独占インタビューに応じ、自らが旗振り役となって精力的に進めているAI関連事業や社内AI教育の進捗、そして課題などについて語った。
目次
AIを主力SIと統合
――富士ソフトの主力は?
独立系のSIerとして事業を展開しています。一番の強みは、組み込み開発技術です。
北は北海道から、南は沖縄に至るまで全国に拠点を構え、単体で約8000人、連結で約1万5000人の社員がいます。
ガラケー(フィーチャー・フォン)の最盛期に、当社はそのソフトウエアシェアを6、7割くらい獲得しており、業績も好調でした。しかし、リーマンショックが起きた2008年ごろから、業績が急激に下がりました。リーマンショックの影響もありましたが、ちょうどそのころ、iPhoneやAndroid端末が発売され、スマートフォンが普及し始め、ガラケーの利用が減っていったのです。ガラケーがスマートフォンに取って代わられました。
当社を含め、日本の企業がアメリカの企業に負けた、ということです。当時、国内企業が製造する携帯電話は、各社が独自のハードウエアを作り、各社が独自のOSを搭載していました。筐体もOSもアプリもバラバラの独自開発。ガラパゴスな製品を製造していたわけです。そこにiPhoneが登場し、Android端末が発売され、ハードウエアやOSの標準化が一気に進みました。
組み込み開発を強みとして、携帯電話のシステム開発で技術力を発揮していた当社の多くの技術者は仕事が激減しました。富士ソフトの業績が下がってしまったのです。
その後、富士ソフトの業績は回復しました。その要因の一つが自動車です。2008年ごろ、モバイル分野からの転換を図り、次世代の自動車技術に取り組み、2019年度には自動車関連の開発で約200億円の売り上げを計上、成長を続けております。現在では、2000人を超える自動車関連の技術者を抱えています。
かつて日本の自動車関連企業もガラケー同様、各社が独自の開発を行い、ガラパゴスになっていました。自動車業界でも、製品開発の標準化、高度化が図られています。
AIを提供サービスにラインナップ
富士ソフトは、携帯電話事業の反省をもとに、先進技術に取り組むソフトウエア企業として、さまざまな標準技術、最新技術を国内外の企業、特に製造業の分野にいかにして届け、活用いただくかということに取り組んでいます。
そこには、やはりAIです。そこで当社は、AIのインテグレーションを始めています。
2015年当時「AI、全く興味なし」-2年後に考え改める
私は、イノベーション統括部を担当しています。本当に新しい技術をどんどん進めていこうという部隊です。その中でも、一番注力するのがAIです。
AIビジネスをスタートしたのは3年前、2017年です。その2年前の2015年ごろ、社長の坂下から「機械学習というのがあるのだけれど、どうだ?」と聞かれたのですが、当時の私は生意気にも「全く興味ありません」と答えたのです。
しかしその後、ディープラーニング(深層学習)が本当に社内外で広まり始めたのです。社外では特にクラウドベンダーの対応が早かったですね。AmazonのAWSが特に早く、その前はIBMのワトソンが話題でしたね。
当社も協業している各クラウドベンダーがAIプラットフォームを提供し始めたというのでで、社内でもAIが話題になってきました。東京大学の松尾豊教授とお話しする機会があり、日本ディープラーニング協会(JDLA)に入るきっかけにもなりました。
私はその時、考えを改めなければいけないと考えたのです。「これを逃すと、SIerは本当に食べる道がなくなるな」と思ったのです。そこで2016年から準備を始めて、2017年に、このAI専属のチームを立ち上げ、AIビジネスをスタートしました。
富士ソフトは、お客さまに対して「AIをやりましょう」ではなく、「AIもやりましょう」とお伝えしています。お客さまのビジネス要件とか、さまざまなニーズを伺うに当たり、AIだけで解決できるものは少ないと思います。AIを無理に使わなくても、既存の技術やその他の手法でも効率的に解決できることが、まだまだ十分にあると思っています。
経営層の方々の、「AIが流行ってきたから、AIをやろうか」というきっかけができたのは確かです。あとは、お客さまの声に、当社がいかに技術で応えていくかということです。その最適な方法がAIなのであれば、AIを使用すればいいですし、そうでなければ、AI以外を活用するのもいいと思います。
クラウドベンダーとも緊密連携-マイクロソフト、アマゾンなど
富士ソフトはクラウドベンダー各社ととても緊密にお付き合いさせていただいています。日本マイクロソフト株式会社とのパートナーシップは本当に長期にわたり強固ですし、アマゾン ウェブ サービス(AWS)とは「APN プレミアコンサルティングパートナー」に認定いただき、かなり強力なパートナーシップを組んでいますので、クラウドAIのプラットフォームも幅広く活用しています。また、大学とも共同研究を進めており、特に医療系では、AIの知見を当社が大学側に提供しています。
19年度のAI関連売上高10億円規模
AI関連の売り上げは、2018年度は約4億円、2019年度は約10億円、前期比250%程度で成長しています。
3年前に社内AI教育スタート-G検定、E資格の取得を奨励
――社内のAI教育はいつから?
3年前からです。AIを使いこなさなければならないと考えています。社内教育が本当に大事です。AIに携わる社員には職種を問わず「JDLAのG検定、E資格を取りましょう」とずっと言い続けています。もちろん社内の勉強会も実施しています。JDLAが提供するコンテンツ「#今こそ学ぼう」などもどんどん活用しましょうと、私も積極的に発信しています。
座学教育やG検定対策勉強会だけでなく、実践が非常に大切なので、Jupyter Notebookのようなブラウザで触れる開発環境や、Pythonで組んで、ディープラーニングで学習させられる環境を社内向けに公開しています。専用のGPUサーバーもあり、社員がいつでも勉強できるようになっています。
――JDLAのG検定、E資格の保有者は?
G検定の保有者は2020#1までで263名です。E資格は36名です。2017年にJDLAに参画してから、社内で取得を推奨する試みを続けています。
――AI開発に携わっている人材の数は?
100人ぐらいです。
新技術への果敢な取り組み「AIS-CRM(アイスクリーム)」
富士ソフトは、新技術への果敢な取り組みとして「AIS-CRM(アイスクリーム)戦略」を掲げています。AはもちろんAIのA、IがIoT、Sがセキュリティです。そしてCはクラウド、Rはロボット、Mはモバイルと、オートモーティブです。
――八木執行役員が、富士ソフトとしてのAI、ディープラーニングの旗振り役なのですね?
はい。社内でもそう認知されています。
――SIerとして、取引企業に対してどのようにAI活用を支援しているのですか?
製造業向けには、画像処理を中心に支援しています。
分かりやすく言うならば、CASEといわれているような次世代開発事業ですね。先ほど述べたとおり、19年度の自動車関連売上高は約200億円です。その半分以上が次世代開発に関わり、その中でAI関連の開発も増えています。
強みは「AIと相対する技術」系の技術者が多いこと
――AI関連で強みは?
当社の強みは、AIだけでなくIT全般の技術を持っていることです。例えば画像処理では、画像・映像処理ライブラリ「OpenCV」系の技術を持っている技術者がすごく多いことです。
画像解析のOpenCV系の技術者が、AI、ディープラーニングを学ぶことによって、「いいとこ取り」ができるようになってきています。
全てをOpenCVだけで解決することにこだわる必要はないですし、AIは完璧ではないので、途中まではAIで処理し、そこからは先にOpenCVで差を取って、そしてまた次のAIにかける、というような進め方によって、効率化ができるようになってきています。
当社は、AIだけでなく、それと相対する可能性がある当社がもともと培ってきていた組み込み開発の技術、その両方の技術を持っていることでお客様に最適なソリューションを提供できると思っています。
100人では少ない-全社員がAIを扱えるように
――AI関連で苦労は?
苦労だらけです。めちゃくちゃ苦労しています(笑)。まだまだ技術者が足りていないということもちろんあります。技術者は全社で約7000人いますから、AIを携わるのが100人というのは、やはり少ないんですよ。
ですから、もっと社内でAIの技術者、AIを活用できる人数を増やしていかなければなりません。全社員が当たり前のようにAIを扱えるようにしたいというのが目標です。
データ不足に苦心
二つ目は、本当にコアなデータが揃っていないケースがまだまだ多いことです。
AIのアルゴリズムのコモディティ化が進んでいます。例えばCNN(畳み込みニューラルネットワーク)も、RNN(再帰型ニューラルネットワーク)も、GAN(敵対的生成ネットワーク)系など、いろいろな技術がどんどん出てきていています。
そして、われわれも、それらの技術を選んで使いこして、これが「ベストな選択肢です」と言えるぐらいの実力はあると自負しています。
でも、データがない、必要なデータが揃っていないことがボトルネックになることが多いのです。お客さまにAIを届ける前に、まずは、どうやってAIに必要なデータ基盤を作るかという作業が必要です。その技術は、AIとは全く別の技術なのです。
八木 聡之(やぎ さとし)
執行役員
イノベーション統括部 統括部長
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