2020/07/31
【独占】旅行業にAI活用、データサイエンス部門新設-ゆこゆこHDの潮氏・越智氏
旅行業に人工知能(AI)を活用している企業がある。創業20周年を迎え、会員数700万人超を誇る宿泊施設の検索・予約サイト「ゆこゆこネット」で、「シニア × 平日 × お値打ち温泉旅行」などを提供するゆこゆこホールディングスだ。
ゆこゆこホールディングスが最も重視するのは、60歳以上のシニア層を中心とする「会員基盤」だ。より一層、顧客のニーズに応える商品を提供するため、顧客の属性を明確化し、精緻な分析を行うためにAIの導入にかじを切った。
現在、AIを活用して会員向け紙メディア(会員誌)の発行部数の最適化を進めているほか、700万人超の会員に対する「RFM分析」で統計学や機械学習を駆使。今後、分析結果に基づくレコメンドロジックの開発や、コールセンターの業務改善に取り組んでいく方針。
ゆこゆこホールディングスの執行役員の潮真也氏と、経営戦略室・データサイエンスグループのリーダー、越智祐輔氏はこのほど、AVILEN AI Trendのインタビューに応じ、主力事業へのAI活用と、その一環としてのデータサイエンスグループの新設などについて語った。両氏の発言は次の通り。
目次
シニア会員基盤を中心とするビジネスモデル
潮氏
ゆこゆこホールディングスは、旅行業の中でも特に温泉地にある温泉旅館やホテルを中心にご契約をいただき、「宿の平日の稼働率を高める」という点で、これまで20年にわたりお宿様との良好な関係を築いてきました。現在、約3500ほどの宿との取り引きをしています。
また、現在700万人強の会員様に当社のご利用をいただいています。
会員全体の8割強が、60歳以上の方々です。平日に温泉旅行を楽しんでいただける方に長年ご愛顧をいただいてきた結果、このような年齢構成になりました。
当社は、大手のマス向けのフルラインナップ・ビジネスとは対極を成すところで事業を行っており、ニッチな旅行商材を、ニッチな方々に届けるビジネスモデルといえます。宿より、平日のお値打ちプランをご提供いただき、平日に旅行できるシニアに楽しんでいただくことを追求してきました。
また、当社が取り扱うアナログ媒体、デジタル媒体の二つのメディアには、それぞれに長所・短所がありますので、ハイブリッド型で会員様にお届けすることにより、会員様の旅行選びにまつわるさまざまなご要望や利便性の向上にお応えし続けてきたことが当社の特徴です。
「ゆこゆこ」の会員分析、会員誌発行部数最適化
――AI活用について教えてください。
越智氏
当社においては、もともとデータベース上に、かなりの量のテーブルとデータが蓄積されていたものの、分析要件に合わない状態でした。
そこで、改めて会員基盤を整備しようということで、Tableauという可視化ツールや、データを加工するためのデータウェアハウスを作って導入しようというプロジェクトを立ち上げました。
近年、環境が整備されたことで、かなりスピーディーに分析が実施できるようになり、経営判断に求められるファクトデータを効率よく出すことができるようになりました。
――具体的にどのような取り組みを進めているのですか?
越智氏
大きく2点あります。
1点目は、会員分析におけるAI活用です。700万人を超える会員にはさまざまな方がおり、ご愛顧いただいている方もいれば、そうではない方もいます。
そのため、例えば分析の過程において統計学や機械学習を用いてスーパーロイヤル層の発見を行ったり、売上との関係を回帰分析で検証したり、クラスタリングで単価が高い会員やグループ利用が多い会員といったようにグループ分けを行って分析したり等、会員データをさまざまな角度から分析することで、経営判断をより精緻に行えるよう取り組んでいます。
2点目は、アナログ媒体である会員誌の発行部数最適化に関するAI活用です。会員誌の発行は年間数百万部単位と大規模ですが、コストは当社負担であり、無料で会員にお届けしているため、ハイリスク・ハイリターンなビジネスといえます。
売上高に対する会員誌のコストの割合は約4分の1を占めており、これをどうやって効率化するかが重要です。今までは、個人の職人技で送る対象を決めていましたが、AI活用により、客観的かつ精度の高い送付先選定ができるようになりました。
この取り組みは、会社の業績に直結する一大プロジェクトだと認識しています。
最終的に内製化へー会員誌の発行部数最適化
――AI活用は内製化しているのですか?
越智氏
内製で行っているところと、外部にご協力いただいているところがあります。
先ほど申し上げた会員誌の発行部数最適化は、日本データサイエンス研究所株式会社(以下、JDSC)とコラボレーションしながら取り組んでいます。最終的には自社内での内製化を目指し、人材育成も並行して進めています。
越智氏
データサイエンスグループの所属メンバーは、現在5名体制です。
企業価値の更なる向上に向けて、今年2月にデータサイエンスグループを新たに組成し、 組織としてAIの活用に本格着手しました。
もともとAIの専門家集団というわけではなく、社内の事業部門での経験がある人材を登用しています。各自が分析スキルを研鑽し、最終的にはデータサイエンス領域の専門家集団となることを目指した組織です。
そのため、それぞれのメンバーのバックグラウンドも多様です。私のように経営戦略室の者もいれば、営業、マーケティング、システムなど異なる部門のメンバーが集まっています。
メンバー育成については、JDSC社とのタイアップや社内勉強会の開催、外部研修の利用等、各自がデータサイエンスに関する技術をキャッチアップできる環境が社内に整備されています。
AIの内製化を決断ー熟考の末
潮氏
当社にとって、AI活用は非常に重要なテーマです。
データサイエンティストのようなデータの統計解析、あるいはAI領域に明るい方を、プロフェッショナルとして外部から登用するのがいいのか、あるいは、その領域については未熟だけれども、会社に対する愛着心を持ち、社内の事業をよく分かっているメンバーを、サイエンティストに変えていくのがいいのかについては、経営陣でも色々と議論を重ねました。
その議論の末、「たとえ時間がかかっても、愛着心を持ち現場のわかる人材をしっかり育てていこう」という方針へと至りました。
当社のAI活用においてのあるべき形は、しっかりと事業の実情やカスタマーの特性、宿の特性それぞれに即した形で回すことができないと、なかなか思い描いたような形でワークしないという問題認識もありました。
コロナがもたらした影響
――新型コロナウイルス感染症の影響は?
潮氏
旅行業を取扱う当社において、今般の新型コロナの流行による事業への影響は大きく、とりわけ当社のメインカスタマーであるシニアにとっては、今回の感染症はまさに大きな脅威となっています。
しかしながら、シニアの方々の「温泉旅行を楽しみたい」というニーズは依然として大きく、われわれが会員の皆様に提供しているサービスの価値そのものが揺らいでいる事態ではないという確信めいたものを持っています。日本人の旅行需要は、当面の間は海外旅行から国内旅行にシフトすると思いますし、コロナ禍においては特に「温泉に行って、ゆっくり疲れを癒やしたい」という声が非常に多いようです。
例えば、緊急事態宣言の解除を契機に、既存会員の皆様が今まで溜め込んでいた「旅行したい!」という欲求が解き放たれるかのように、予約が一気に回復トレンドに移行してきています。
宿側の感染予防の努力をきちんと伝えたい
潮氏
コロナ禍の状況にある中で、われわれの使命はシニアの方々にとっての「コロナにかかったらどうしよう・・」という不安・懸念材料を少しでも取り除いてさしあげることだと思っています。宿側でも、例えば、バイキング会場でのソーシャルディスタンスを徹底することや、部屋食プランの供給量を増やすこと等、安心して旅行者の方に旅を満喫していただくためのさまざまな取り組みにチャレンジされています。
われわれは、自社メディアを通じてこういった宿の取り組みをきちんと会員の皆様に伝えることによって、カスタマーの「旅行したい!」を後押しできればと考えています。
今後、消費者の旅行の楽しみ方は変容を遂げる(感染リスクの低い環境下において、はじめて旅を満喫できる)と思います。ウィズコロナ時代における「ゆこゆこ」らしい旅のご提案、宿泊予約のご支援の方法を磨き上げ、これまで以上に会員の皆様に喜んでいただける旅行会社を目指し、引き続き取り組んでいきます。
潮 真也(うしお しんや)氏
執行役員
経営戦略室 室長
データサイエンスグループ マネージャー
総務人事部 部長
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越智 祐輔(おち ゆうすけ)氏
経営戦略室
データサイエンスグループ リーダー
保有資格など
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