2020/07/24
【独占】企業DXに追い風、コロナ禍-文章解析AIで課題解決するインサイトテック伊藤社長
自然言語処理技術を用いて、企業が持つ「お客さまの声」や「特許・論文」、「レビューデータ」といったテキストデータを基に、課題解決をサポートしている企業がある。文章解析AI(人工知能)エンジン「ITAS(アイタス)」を独自開発し、汎用・商用化を実現して提供しているインサイトテックだ。
インサイトテックの伊藤友博社長はこのほど、AVILEN AI Trendのインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進が加速しているとの認識を示した。「DXの中でAIを活用していこうとする企業が多く、かなり追い風にはなっているという印象があります」と語った。
文章解析AI「ITAS」
――主力は?
文章解析AI「ITAS」です。VOCの活用にマッチするAIエンジンです。お客さまが何に対してどのようなご意見を言っているのか、そのボリュームがどの程度あるのか、感情として優先順位の高い意見は何か、という三つを自動的に構造化するAIです。
自然言語処理と呼ばれる領域ですが、構文解析を活用しているのが特徴です。要は単語の並びではなくて、主語、述語、あるいは係り受けにこだわりながら、文法的に見た意見、あるいはフレーズの抽出というようなところに技術的に特化しています。
日本語は構文解析が難しいと言われていますが、その部分は産学連携で、京都大学の黒橋禎夫教授を共同研究パートナーにお迎えして、いわゆる日本語の文法的理解を可能にするAIをモットーにしています。
DXに追い風-コロナ禍の影響で
――ITASの提供をめぐり、新型コロナウイルス感染拡大の影響は?
短期的に、例えば4月などは、さすがにご相談が止まりましたが、直近では特にDX(デジタルトランスフォーメーション)の中でのAIを活用していこうとする企業が多く、かなり追い風にはなっているという印象があります。
ただ「AIエンジンを単体でください」と言う企業は少なく、「ある業務課題をどう解決してくれますか」という形で、しっかりとシステム的、業務的な実装もふくめて支援する必要が高まっているのかなと感じます。
「不満買取センター」に集まる不満を解析
――ITAS開発の経緯は?
もともとAIを作ろうということではなくて、別途運営している「不満買取センター」に集まる生活者の不満を、自社で解析するツールとして開発したAIエンジンです。
「声が届く世の中を創る」というミッションを掲げる中で、不満のデータだけではなく、各企業さまがお持ちの、いわゆるVOCのデータ、コールセンターのログなどにも活用できるということで、文章解析AIとして、2018年3月26日のローンチから、2年余りたちました。
技術的なバックグラウンドの特徴としては二点あります。一点目は産学連携の中で研究レベルの自然言語処理技術が活用できるということです。
二点目、これが結構重要なのですが、不満買取センターに集まる最新のテキストデータをコーパス、いわゆる学習用のデータとして活用でき、これが自然に手に入る環境にあるということです。
今ですと、コロナの不満などをふくめ、日々、生活者の日記風のデータがどんどんわれわれの会社に集まってくる状況です。この二点が、ITASの特徴となっています。
――不満買取センターとは?
世の中の不満の裏にはビジネスチャンスがあるはずだということで、日々の生活の中で感じた不満を投稿していただき、それをAIで査定・スコアリングして、ポイントで戻すようなサービスを展開しています。
自然に人々の想いを記したテキストデータが集まる環境にあり、世界唯一のデータを学習用データとして使えるのです。データもあり、技術もある中で開発したAIです。
今、1日あたり、大体1万件ぐらい自然に集まってきています。1件あたり大体60文字でしっかり書かれた日記風の投稿です。
――ITAS開発プロセスでの苦労は?
開発するにあたり、ただデータを処理するだけのAIエンジンにはしたくないという強い思いがありました。
ビジネスでそのまま活用できる課題解決の武器にしたいという思いがあったので、ビジネス課題が理解できるメンバー、それをAIのモデルに要件としてブレイクダウンするメンバー、それを実際にモデリングするデータサイエンスの知見を持ったメンバー、できあがったものを市場にぶつけてフィードバックするセールスのメンバーが必要でした。
当然、ひとりで全部できるわけがないので、それぞれの役割をになうメンバーが存在するなかで、相互のブリッジになるような役割が、非常に重要だったと振り返っています。当時は私自身がそのようなブリッジの役割を果たしていました。
――インサイトテックの規模と職種は?
現状、社員が20名程度、パートナーさんをふくめ30名弱でやらせていただいています。
先ほど申し上げた職種、コーポレートもふくめると、5~6職種存在し、それぞれが均等にいるようなイメージです。人材の不足感という意味では、市場でのレア度ということもふくめて、データサイエンス領域の体制強化が経営課題の一つです。
――データサイエンティスト、もしくはデータエンジニア、AIエンジニアなどを増やしたいと?
そうですね。いわゆるビジネスサイドのデータサイエンティストも必要ですし、自然言語処理に特化した産学連携、いわゆる大学の先生としっかり議論できる専門性を持ったデータサイエンティストも必要です。かなり緻密な人財・職務要件の定義が必要です。わりと狭い領域ですので、ご縁を待ちながらという感じです。
――日本で求められるAI人材は?
データサイエンス領域でもT字型の人材が求められているのだろうと思っています。知見の深さを持ちながら、周辺領域と自分自身でつないでいけるような、広がりと深さの両軸を持ったT字型人材がもっと育ってくると、日本のAI市場ももっと育ってくるのではないかと思っております。
――インサイトテックが目指すビジョンは?
生活者の声、働いている人の声を社会に届けるハブになりたいと考えています。
声は上げているのだけれども、なかなか当事者に届かず、価値が生まれない、改善ができないという世の中を変えていきたいとつよく思います。
手段としてAIを活用しています。声といっても、音声そのものよりテキストになっていることが今後増えていくと見込みます。テキストからしっかりと声、言おうとしている意見、あるいは優先順位のようなものを抽出する役割をにない、「声が届く世の中を創る」というビジョンを実現したいと考えています。
伊藤友博氏
株式会社インサイトテック
代表取締役社長
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