2021/08/04

2022/11/17

経営承継支援が中小企業M&AマッチングにAIを活用。1日→1分に作業時間を短縮!

AI REPORT, インタビュー

ライター:

本プロジェクトを主導した、取締役 向氏

人工知能(AI)を活用したサービスやパッケージ製品が溢れる社会で、ゼロからAI開発プロジェクトを立ち上げる企業はまだまだ少ない。 ましてや成功した事例となれば尚更である。

そんな中で、中小企業の事業承継・M&Aをトータルでサポートする会社「経営承継支援」が話題だ。 経営承継支援はAIシステムの設計開発を AVILEN に委託し、事業の買い手を推薦する「ロングリストレコメンドAI」を導入した。 「約1日かかった作業を1分に短縮する」(*) と注目を集めている。

今回は本AI開発プロジェクトを主導した、経営承継支援 取締役 向 洋平氏とシニアマネージャーの藤原秀人氏に話を聞くことができた。

(*) 『日本経済新聞』, 2021年7月8日, 朝刊, 12ページ

経営承継支援でのAI利活用の現状について

――貴社がAIを活用して行っている取り組みや社内体制についてお聞かせいただければ幸いです。

体制というほどではありませんが、たとえば株価算定のために決算書をOCRで読み込むとか、読み込んだ結果を自社書式に合わせる、といったデジタル活用は行っています。 シンプルなRPAの利活用などは今までもしていましたが、今後は更にデジタル化を進めていきたいところです。

また、社内にエンジニアも必要だろうということで、エンジニア採用を始めるべく準備中です。 秋頃からAI・システムを統合的に構築できる体制を作っていく予定です。

――今回のAI開発プロジェクトはどのように企画されたのでしょうか。

2019年終わり頃に、外部の専門家とAI利活用可能なテーマを調査し、10個ほどの事業案をピックアップしました。 そのあと夏頃からAIベンダーの選定をはじめ、やりたいことから相談していくなかで今回の案件が実現しました。 2つ目の案件でしたね。

――社内業務は数多くのプロセスに分けられるかと思いますが、10個のプロジェクトをピックアップするのは難しかったですか。

外資系のAIコンサルティング企業と協働して進めたので、スムーズに行きました。

流れとしては、まず弊社のコンサル部社員たちをエンドユーザーとして想定しました。 そして彼ら彼女らが日々行っている業務を棚卸しし、エクセルにまとめました。

そこから各プロジェクトを短期・中期・長期に分類し、想定される難易度と併せてリスト化の上、いろんな開発会社に聞いて回った感じですね。

なぜAVILENに開発を依頼したか

――そこから AVILEN との関係がスタートするわけですが、どのような経緯で開発委託に至ったのでしょうか。

私が探して決めました(笑)。 経緯としては、もともと自分でPythonを少し勉強していて、機械学習系の勉強も少し進めていたんです。 その中で日本ディープラーニング協会さんのサイトを見て、様々な会員企業に声をかけていくなかで、AVILEN さんとも接点を持ちました。

最初は「ここは教育事業もやってるし、いいかな?」という軽い気持ちで相談に行きました。そこで驚いたんですが、担当者の方が、リストの全プロジェクトについて実現可能性を詳細かつ的確に答えてくれたんです。 これこれこういう技術があって、こういう点に気をつければ出来る、と。目の前が明るくクリアになるような爽快感がありましたね。

ちなみに、他社ベンダーの反応は「あー、いいと思います」くらい。 提案はしてくれるんですが、何を想定したソリューションなのかが不明瞭でした。 例えば費用感などは出してくれるんだけど、開発期間がどのくらいかかるのかはわからない、とか。

その点 AVILEN さんは「できる・できない」、工数、費用を即答してくれたので、感動しました。 なので、その場でここに決めようと思いました。ほかにも、三菱UFJ信託銀行さんとの取引実績なども見て、信頼できそうだと感じたのも理由のひとつですね。

――今回の案件で解決したかった課題は何でしょうか。

今回開発をお願いしたのはロングリストレコメンドAIというものですが、まずロングリストについて簡単にご説明します。

“三方良しの経営承継を通じて一社でも多くの中小企業の「価値」を次世代に繋ぐ”ことが弊社の経営理念です。その要は、事業の売り手に対して最適な買い手をマッチングさせることです。

一般的なマッチングの流れとしては、まず何らかの理由で事業を手放したい事業経営者様がいて、我々が詳しくヒアリングします。 そこから買い手を探していくのですが、すべての企業に「この会社買ってみませんか」と総当たり的に聞くのは当然不可能なので、シナジー効果が見込め、買収可能性が高い企業のリストを作成します。 これが我々がロングリストと呼んでいるものです。

ロングリストは知見のあるコンサルタントならさっと作ることができます。 一方、新人が作ると纏めるのに時間がかかりますし、精度も低いものになってしまう。

なので、AIを利用してまずたたき台を作る。 そのあとに人間が詳細な情報をもとに磨き込む。このような体制が作れれば、クオリティの底上げと業務効率化を両立できると考えました。

また、AIはプロジェクトのローンチ後もどんどん学習を進めていきます。 いずれ、人間が作成するのとは全く異なるリストが生成されるようになるかもしれない。 そうすれば、買い手探しにおける新しい着眼点が見つかるかもしれない、という狙いもありました。

加えて、人間にとっては「AIを超えるアイデアを出せ」というプレッシャーにもなる。 AIによる効率化で空いた時間を活かし、創造性を発揮することに注力してほしいという課題感も大きいです。

――AVILENへの依頼にあたっての懸念点はありましたか?。あるなら、それはどのようなものでしたか。

いえ、 AVILEN さんに対しての懸念はありませんでした。 PoC (Proof of Concept: 概念実証) の成功率が100%だったからです。

プロジェクト上で一番の懸念だったのは、「AI学習用のデータベースを整備できるか」。 実際、開発がスタートして最初に、3か月ほどかけて整備を行いました。 逆に言えば、データさえあればできるんでしょ? という温度感でしたね。

また、作ったAIモデルと社内のシステムがちゃんとつながって動くかな?という心配はありました。 ただ、実際には全く問題なく動いたので「あぁ、杞憂だったんだな」と(笑)。

ユーザテストにご協力いただいた、シニアマネージャー 藤原氏

――実際に開発が始まってから、当初の想定と異なることはありましたか?

(藤原)大きくはないです。 強いて言えば、現場社員へのユーザテストが思ったより多かったことですかね。 もちろん必要な作業ではあると感じていましたが、「どのくらいの回数テストが必要なのか?」というのが初期段階で見えてなかったです。 開発担当の人に聞いたところ、細かく教えてくれたので、そのあとは違和感なく進められました。

と、嬉しい誤算だったのは開発スピードです。 速かったですね。 ほかにも、話の中でちょっと出てきたアイデアを自発的に取り入れてもらって、勝手に精度を上げてくれたのは驚きでした。

開発後の手応え

――実際に現場に投入されての使用感はいかがでしょうか。

得意な業種については結構いい感じです。 「飲食」とかの細かい業種だと、割といけるなという手応えを感じています。一方で、不得意な業種はまだまだというのが実情です。 「経営コンサル」などは、同じ業種でも様々な方向性があるので難しいですね。

今は様子見の段階で、現場コンサル社員によるフィードバックがこれからAIに蓄積していくなかで、 改善が見込めるかな、と考えています。

今後のAI利活用の展望や取り組みについて

――今後のAI利用の方向性について教えて下さい。

まずはロングリストのブラッシュアップが第一で、学習用DBの拡大などを計画しています。新規案としては、買い手に対して売り手をレコメンドしたりだとか、テレアポでの再アプローチ先をレコメンドしたり、などがアイデアとしてはある段階です。

これからも、サービス・業務フローを再度見直して新規プロジェクトを掘り出していきたいですね。 電話対応AIとかインサイドセールス用のAIシステムなど、とにかく効率化につながるシステム・AIがないかな? と常に考えています。

「資料を入れたら提案書ができる」が理想ですが、すぐには難しい。 なので、まず人間が行う業務の一部分をAIで効率化していくのが良いかなと思っています。 人間が創造性を発揮して本当に価値ある仕事を提供し、AIはそのサポートを行っていくという世界観ですね。

――人間が提供できる価値と、AIが提供できる価値。どこに一番の違いがあるとお考えでしょうか。

AIは現状、データがないと何も出来ません。 なので、AIの強みは「データを蓄積しやすい、標準化された部分の底上げ」にあると考えています。

例えば、プレゼン資料にはAIがちょっとずつ入ってきています。 一見創造力を問われる仕事のようですが、そもそもプレゼン資料の目的はメッセージを的確に伝えること。 人間がやるべきはメッセージの磨き込みですから、資料の体裁を整えるだけならAIでも十分可能です。

一方で、現実世界で人と対話するなどの、 感性や創造性に依存する部分は、まだ人間じゃないと難しいと思います。 AIと人間が協調することによって業務効率が上がり、より創造的な領域にフォーカスできるんじゃないか。 そんなふうに期待しています。 今後はスタンダードから逸脱した、すこし変わってる人が求められていくのかもしれません。

人間がやるべきことに時間を使っていけるように

――最後に、改めて経営承継支援様の今後の展望をお願いします。

経営承継支援は社会問題を解決していく会社です。 日本の事業承継問題は依然深刻で、まだまだ後継者不足に苦しんでいる中小企業がある。 その状況をAIやシステムの力で変えていきたい。

単純な業務はAIでどんどん効率化し、対応可能な支援件数を増やしていく。 人間はお客様とのコミュニケーションに集中し、この問題を解決することに創造性を発揮する。 人間とAIが協働し価値を提供する、そのための体制を更に強化していきたいですね。

まとめ

「シンギュラリティ」の到来が叫ばれて久しいが、私達人間の仕事が減る気配はない。 「人間の仕事を完全に置き換えるAI」などというものは、絵に描いた餅でしかない。

経営承継支援のような挑戦的企業は、クレバーにAIを理解・活用し、人間が提供する価値を確かに高めている。 AIを過大評価もせず過小評価もしない、そんなしたたかな企業をサポートするため、 AVILEN のようなAI専門ベンダーがいる。

「日本の事業承継問題を解決するためにAIを利用していく。AIで業務を効率化し、人間の創造性を発揮させる。」

そう語る向氏の強い意志に満ちた表情が筆者の印象に残っている。 ビジョンを掲げ、行動に移す意志そのものが、人の感性の発露なのだろう。すべての人が感性と創造性を発揮できる社会を実現すべく、AVILEN も最新のテクノロジーを多くの人へ伝え、実現させていきたい。

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