2020/06/05

2020/07/18

【独占】FRONTEO社長:文書レビューAIツールの日米本格投入が「マイルストーン」

インタビュー

ライター:

全人類が新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の危機に直面する中、独自開発の自然言語解析AI(人工知能)を駆使して国内外の法律事務所に対する訴訟支援で実績を重ね、複数の国内製薬大手への創薬支援のほか、新型コロナウイルス感染症の治療薬候補の特定など、積極的かつ柔軟な「攻め」の取り組みを展開している企業がある。東京・港南に本社があるFRONTEO(東証マザーズ上場、証券コード:2158)だ。

「KIBIT Automator」日米本格投入

FRONTEOの守本正宏社長・CEOはこのほど、AVILEN AI Trendの独占インタビューに応じた。守本社長・CEOは、2021年3月期に見込む連結営業損益の黒字への転換について、米司法省向け文書のレビューに使うAIツール「KIBIT Automator(キビットオートメーター)」の日米本格投入の実現が大きく寄与したと説明。「ものすごく大きなマイルストーン(画期的な出来事)であり、ゲームチェンジになった」と強調した。


米国大手法律事務所が高評価

FRONTEOは19年11月25日、米国大手ベーカー・アンド・ホステットラー弁護士事務所(Baker & Hostetler)と共同で実施した「KIBIT Automator」の実証実験(PoC)の結果、時間短縮やコスト削減に成功したと発表。弁護士がレビューする文書量が20%減り、1時間当たりのレビュー文書数が91.6件と大幅なスピードアップとレビュー費用の29%カットが実現したという。

リーガルテック事業が営業黒字に転換ー20年1~3月期

「KIBIT Automator」の市場への浸透が進んだことなどから、リーガルテック事業は20年1~3月期に営業黒字へと転換。AIソリューション事業の導入企業数は218社前年同期比で1.2倍なった。



株価6倍以上

2020年は年初から「コロナ禍」を背景に金融市場は世界同時株安となり、3月15日の日経平均株価の下落幅は一時1300円を超え、リーマン・ショック後の2008年10月16日(1089円)を大きく上回る。

東証マザ―スに上場する他の多くの企業と同様、FRONTEOの株価も下落したが、3月23日の156円を境に上昇基調へと転換。6月2日には1056円を付け、わずか2カ月余りで株価は一時6.8倍となった。

国内製薬大手向けに創薬支援AI

FRONTEOは3月25日、独自開発の創薬支援AIシステムを国内製薬最大手の武田薬品工業(東京都中央区)に提供すると発表

。4月17日には新型コロナの治療薬候補の発見を目指すドラッグリポジショニング(既存薬の別の病気への転用)研究の開始、そして5月1日にはこの調査結果として約450種の既存薬の転用候補を矢継ぎ早に公表した。

耳目集める存在

さらに5月27日には前期の決算発表と併せて今期(20年4~21年3月期)の営業黒字転換を予想。加えて28、29日と連日、日本マイクロソフトと連携してクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」上でのKIBIT製品の提供開始と、中外製薬への創薬支援AIシステム提供を相次いで公表すると、FRONTEOの株価は6月2日まで4営業日連続でストップ高を演じ、市場関係者やメディアの耳目を集める存在となっている。

出典:東京証券取引所

「2人の天才」ーAI開発者

「日本人で実際に開発を中心的にやっているのは10人ぐらいですが、本当にエンジンを開発してるのは2人の天才です。本当は天才1人でもいいかもしれない。うちには2人もいて、すごいことだと思っています」ーー。守本社長・CEOはインタビューで、FRONTEOのAI技術を支える十数人の開発者の中に、類まれな「天才2人」が存在することを満面の笑顔で明かす。

「AI時代の勝ち組」に強い意欲

「FRONTEOのAIは、少量の情報でも、的確に、精度が高く、スーパーコンピューターよりもはるかに良い性能を出せます」「まだ『AIの勝ち組』が決まっているわけではありません。その中にFRONTEOも入っていたいと思います」ーー。FRONTEOが新たに打ち出す「攻め」の取り組みに注目したい。


守本社長・CEOの主な発言は次の通り。

法律文書・創薬への支援実現で広報積極展開

――この数カ月間、広報活動から「攻め」の姿勢がうかがえます。

新型コロナウイルスに関連する、さまざまな社会的な混乱は、確かにありますし、今後、AIの活用ということが必要になってくるとは思いますが、第3四半期(19年10~12月期)の後半ぐらいから、ようやく新しいAIソリューションの米国での活用が増えてきました。

基盤が確立できたので、それに合わせてプレスリリースをだんだん打ててきました。たまたまタイミングが重なっていますが、単純にそれだけではないと思います。

FRONTEOとして、創薬(ドラッグディスカバリー)を支援するためのAIシステムがかなり成熟してきて、実際に製薬会社が導入したということもありました。

FRONTEOのAIを使って新型コロナウイルスに対する治療薬の開発を支援でしたいということもあり、アピールしましたが、基本的にFRONTEOの成長のカーブがちょうど乗ってきた段階というのが、一番の理由ではないかなと感じています。

「マイルストーン」ー米司法省向け文書解析

――「KIBIT Automator」とは?
人が読まなければならないものをAIでほぼ完全に置き換えることができるリーガルテックのAIツールが「KIBIT Automator」です。19年の3月のリリースですが、実際に導入して運用され始めたのが、19年12月ごろです。これは結構、画期的なことです。

それまで米国の弁護士は「やっぱりAIは信用できない。人のほうが信用できる」というものでした。それが、訴訟を扱うので保守的な米国の弁護士でさえ、ようやく「AIだけでもレビューしていいよ」というように、FRONTEOの技術を使うことを認め、それをアピールしてくれたのです。そのことが、ものすごく大きなマイルストーン(画期的な出来事)であり、ゲームチェンジ(流れを変えること)になったと思います。

それまでは、「AIを使っても人との併用」というものでした。それが、米司法省(DOJ)に提出するような資料にAIが使われたというのが大きいと思います。それがFRONTEOにとって、大きな前進だと思います。

「天才2人」の存在

――FRONTEOのAI人材の規模、育成への取り組みは?

日本人で実際に開発を中心的にやっているのは10人ぐらいですが、本当にエンジンを開発してのは2人の天才です。本当は天才1人でもいいかもしれません。うちには2人もいて、すごいことだと思っています。

実際もう一つ大事なのは、FRONTEOのような会社だと、AIを作れる人も必要なのですが、いわゆるデータサイエンティストというAIを使える人たちが必要です。FRONTEOには20人います。運用してサポートする20人が、実際に実用化して運用するためには必要な人材です。こういう人たちもそろえていることは重要だと思います。
資格に関しても、G検定とか取っている人間もいます。やはり資格が重要だと思っているのですが、その人物がAIを使えるかどうかは、なかなか見える化できてないのです。やはり資格があった方がいいと思います。今、「KIBIT Automator」に関しては、今は社内での資格を作っています。将来的には「KIBIT Automator」を使う資格に関してオープンにして、やっていきたいと思います。

強み生かすソリューション確立

――FRONTEOは今期(2021年3月期)に2億円の連結営業黒字を見込んでいます。

もともと、2012年に初めて「KIBIT」をリリースして事業を始めてから、お客さまとのPoC(概念実証)、導入、改善を繰り返し、ようやく、リーガルテック事業も、ライフサイエンスの分野も、金融や他の分野も、FRONTEOの強みを生かせたソリューションを確立できました。

もう一つ大事なのは、やはり売る体制です。どうやってお客さまに訴求して、理解していただき、活用していただくかというところで、かなり練度も上がってきているということです。

もう一つは、お客さまの(AI)リテラシーが上がってきていることもあり、ようやくビジネスとして軌道に乗ってきたという印象があります。技術やノウハウなどが、だいぶ整ってきたなと感じます。

「AI時代の勝ち組」に入りたい

――最後に一言どうぞ。

よく「日本はAIで遅れてる。欧米の方が進んでいる」とか、「日本は米国や中国から遅れている」と言われますが、私はそうは思っていません。

「日本がAIで遅れている」と言われる1つの理由が、投資額です。(欧米に比べて)日本は、はるかに小さいと思います。

でも、AI開発は、本当は数人の天才でできるはずなのです。開発者の数が要るとか、お金がかかるということは、あまり関係ないと思っています。

もう一つは、データを持ってるかどうかということです。「AI開発にはデータが多くないと駄目だ」ということで、確かにGAFAや中国のように、国家レベルでデータを集めているところから比べると、日本は少ないかもしれません。

でも、FRONTEOもそうですが、世界中の情報を本当に学ばなくてはいけないのかというと、決してそうではありません。

優秀な人間も、世界中の情報を全部知った上で判断してるわけではありません。AIが人間を代替するものであるとしても、ある限られた情報の中で、素晴らしい発見をすることができる人間が存在するように、AIも、決して全部の世界中の情報を学ばなければいけないというわけではないと思います。そう考えると、実は日本にもすごいチャンスがあります。

FRONTEOのAIは、少量の情報でも、的確に、精度が高く、スーパーコンピューターよりもはるかに良い性能を出せます。マイクロAIという考え方です。小さくても、性能がいいものをつくるということが、日本人は得意だと思っています。

日本は、そういうところに特化してやっていくと、決して負けないと思います。まだ「AIの勝ち組」が決まっているわけではありません。むしろ、ここを伸ばすことをやっていけば、たぶん「コンピューター時代の勝ち組」と「ネットワーク時代の勝ち組」の(構成企業が)違ったように、「AI時代の勝ち組」も変わっていくと思います。その中にFRONTEOも入っていたいと思います。

「KIBIT」と「Concept Encoder」ー主力のAIエンジン

FRONTEOの主力は、独自開発のアルゴリズム「Landscaping(ランドスケイピング)」と行動情報科学を組み合わせた日本発のAIエンジン「KIBIT(キビット)」、ライフサイエンス分野に特化したAI「Concept Encoder」(コンセプト・エンコーダー)」の2つ。

日本語の「機微」と情報単位の「ビット」を組み合わせて命名された「KIBIT」は、テキスト解析でキーワードに頼らず、専門家や業務熟練者が備える「暗黙知」を再現した機械学習アルゴリズムを用いたAI。少量の教師データで短時間に高精度な解析が可能だ。

Concept Encoder」は自由記述のテキストデータを大量に含むメディカルデータの解析・活用を目的に2018年にリリース。テキスト以外のデータとの共解析もできる。

守本正宏社長・CEOの経歴

1966年生まれの54歳。89年に防衛大学校、90年に海上自衛隊幹部候補生学校をそれぞれ卒業。海上自衛隊護衛艦勤務を経て95年に退官。

防衛大学校では半導体を研究。卒業研究で半導体をテーマにしていた経験から、95年にアプライドマテリアルズジャパンに入社。

ITバブル崩壊後の2003年にアプライドマテリアルズを退職。同年にユニバーサル・ビジネス・インキュベーターズ(UBIC、現FRONTEO)を設立。

2012年、日本企業が国際的法律問題を有利に解決するための「ディスカバリ」(起業家大学出版)を上梓。副題は「~カルテル・PL訴訟・特許訴訟~米国民事訴訟のディスカバリ対応から学ぶ 国際的法律問題を有利に解決する”ディスカバリ”の正しい知識」

(totalcount 3,713 回, dailycount 9回 , overallcount 16,430,124 回)

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