2020/05/28

2020/07/18

【独占】インスタ写真を大量に機械学習ーファッションAIのニューロープ

インタビュー

ライター:

ファッション特化した人工知能(AI)を開発・提供するベンチャー企業が渋谷にある。その名は、ニューロープ(NEWROPE、東京都渋谷区、代表取締役:酒井聡)。

300人のモデルのスナップ写真を掲載するファッションスナップメディア「#CBK(カブキ)」を展開。100万枚超のスナップ写真への手入力のタグ付け「アノテーション」によって蓄積した教師データを学習させて開発したのがファッションAI「#CBK scnnr(カブキスキャナー)」。導入先のファッションメーカーやEC(電子商取引)、出版社などは全幅の信頼を寄せる。

ニューロープのセールス・マーケティング担当、林田杏子氏はこのほど、AVILEN AI Trendのインタビューに応じ、自社開発AIとファッションの相性、ファッション・アパレル業界が直面する課題、そして、ニューロープの海外戦略などについて語った。

アノテーションー6年に及ぶ地道な手入力

AI開発には大量の教師データが必要。その教師データをつくるため、画像などのデータに手入力でタグを付ける作業が「アノテーション」。林田氏はこの地道な作業を振り返る。

2014年から「#CBK(カブキ)」というウェブサービスを運営しています。女性のインスタグラマーを中心に約300人からスナップを提供していただいています。

たくさんのスナップをタグ付けして、そのデータを学習させたのがファッションAI「#CBK scnnr(カブキスキャナー)」です。1枚の画像からニット・スカート・パンプスなどの色や形、ディテールを解析できます。開発には2年ほど時間がかかりました。

「アノテーション」の精度

林田氏は、タグ付けの精度を100%にすることの難しさを指摘しながらも、精度を日々、向上させていると話す。

画像タグ付けの精度は7~8割ぐらいだと思います。例えばフレア系のパンツを着ている場合、スカートなのかパンツなのかAIがうまく判断できないことがあります。物撮り(人が着ていない商品そのもの)の画像はサイズ感や丈感がわかりにくい場合も多いです。人間が見ても画像だけでは判断が付かないのと同様です。

この1年間では、画像解析精度の改善に加えてタグの種類も増やしています。色ではパープルに類似するラベンダーを入れたり、柄ではボーダーだけではなく太ボーダーといったバリエーションを追加したり、認識できるタグを100~200コほど増やしています。

毎日「#CBK(カブキ)」のサイトにインスタグラマーがアップした画像がどんどん溜まっていくので、これを元に日々精度向上をさせています。

100%にするのはなかなか難しいかと思いますが、少しでも精度を上げてより正確な分析ができるようにしていきたいです。

手軽にEC内で活用可能、導入費は月額3万円から

林田氏は、国内外でのセールスの現状や、提供先となるターゲット、AI導入のコストについて説明。「導入社数は順調に伸びている」と語る。

ここ数年で、ファッションにおける「画像検索」の事例は海外・国内で増えてきています。画像から似たようなアイテムを探すという検索方法です。ファッションは、言語化しにくい部分がありますので、画像解析AIと相性が良いと思います。

自社開発できない企業などは、ニューロープのファッションAIを導入して、手軽にAIをECサイト内で活用していただけます。

クラウドサービスなので、月額3万円ぐらいから、割と安価に提供しています。導入社数は順調に伸びています。実際に営業していて感じるのですが、昨年までは、とりあえずどういうものか知りたいということが多かったですが、今年に入って、具体的にいついつまでにこういう機能を入れたいという検討段階に入っています。

日本でECなどやっている規模の大きなファッション関連企業は現状1000社くらいなので、海外も攻めていきたいと考えています。

「ファッションおじさん」「Mika」「#CBKstocks」

ニューロープは、ファッション自動解析AI「ファッションおじさん」と、AIショップ店員「Mika」をSNS(会員制交流サイト)サービス「LINE」で展開中。「ファッションおじさん」は、ユーザーが投稿したスナップ写真を解析して、スタイリング(着こなし術)を案内する。

「Mika」は、インスタグラムのインフルエンサーのコーディネートを大量に学習したAI。ユーザーが投稿したスナップ写真を解析し、数秒以内に「そのアイテムと合うアイテム」を提案する。このほか、無料の素材サイト「#CBK stock」も展開している。

オウンドメディア「#CBK magazine」

 ニューロープが運営するレディースファッションのメディアが「#CBK magazine」。モデルのスナップ写真などの中から気に入ったものをユーザーが選ぶと、AIが類似したアイテムを検出し、ユーザーはそのまま購入することができる。

 

他社媒体へのサービス提供拡大

自社メディア以外の媒体へのサービス提供も拡大を続けている。ファッションウェブメディア「itSnap(イットスナップ)」は2017年から、ニューロープのファッションAIを導入。またディノス・セシール向けに、購入商品を基に、AIが提案した商品を個別に案内するサービスを提供している。

ECサイト以外では、ファッションメディアなどにAIを導入いただいています。itSnapさんでは、記事中の写真を解析して、似たようなアイテム提携先のECサイトにて購入できるようにしています。ディノス・セシールさんとは、カタログのパーソナライズ施策をご一緒しています。通常、紙媒体は、すべての人に同じものが届くのですが、そうではなく、購入した商品を基に、一人一人違うものをお勧めしています。何をお勧めするかについてAIが提案しています。

「ウィン・ウィン」ー300人規模のインスタグラマーとの提携

林田氏は、データ取得が「肝」だと強調した上で、SNS(会員制交流サイト)からのスナップ写真などのデータ取得方法について話す。

インスタグラマーなどに「#CBK(カブキ)」の登録モデルになっていただき、投稿画像をニューロープが使用することへの許諾をいただいています。

ニューロープはファッションメディアを運営しており、1日10本のファッションに関する記事をアップしていています。LINEニュースやライブドア、ファッション通販「ZOZOTOWN」の「ファッションまとめ」などにも掲載されます。

インフルエンサーからすると、自分の写真がいろんなメディアに露出すると、自分のインフルエンス力が上がる一つのきっかけになるので、お互いにウィン・ウィンです。また収益の一部を還元するということも続けています。

モデルさんの数とバリエーションが大事だと考えています。今女性のインフルエンサーは30代の方が多いのですが、幅広い年齢層やファッションテイストのモデルさんに登録いただきたいと思っています。最近では、マタニティの方や50代・60代のおしゃれな方を探して、お声掛けしています。

ファッション業界の現状、国内・海外戦略

この数年間、大手ファッションブランドの日本からの撤退が続く中、林田氏はAIの提供先として有望視する国や地域、そしてニューロープの戦略について話す。

この数年のアパレル業界では、「フォーエバー21(FOREVER21)」や「オールドネイビー(Old Navy)」「バーニーズ(Barneys)」など海外アパレルが日本から撤退したり、大手が倒産したりといったネガティブな側面もありますが、一方で(国内の)ECやデジタルへの期待は高まっていますので、AIを導入する会社は増えてくると考えています。

海外では、東南アジアはこれからさらにEC市場が伸びてきます。ニューロープのAIは、ほとんど言語に依存しないサービスなので、海外展開していこうと思っています。

ニューロープはエンジニアが多いテック系の会社ですが、エンジニアの半数は外国籍のメンバーのため英語で会話をすることが多いんです。海外へ向けた環境を整えています。

売れ残り・過剰在庫への取り組み

ファッション業界には、ブランド価値を毀損しないための「売れ残り商品の廃棄」や、環境負荷・企業の収益性に直結する「過剰在庫」といった問題が存在する。ニューロープはこの「過剰在庫問題」の解決に向けて取り組んでいる。

2018年、バーバリーが売れ残った洋服を燃やしていたことがニュースで取り沙汰されました。売れ残っているからといって大幅な値引きをかけるとブランドを毀損してしまうため、苦肉の策として行われていたものです。ファッション業界では当たり前のことだったのが、世の中には受け入れがたい事実だったということです。

一方、サプライチェーンが長いために実際に販売する2-6か月前には工場に発注をかけていて、この見込み生産の都合上、アイテムによっては余ってしまうのが現状です。売り切るために少なめに作ったとして、お店に十分な商品が並べないような状況になっても消費者にとっての不便を生みます。かと言って燃やしてしまうのは環境にも悪いですし、収益悪化の原因になっているので、そこをどうにかできないかということで、AIで需要やトレンドを予想するところに力を入れていきたいと考えています。

「SNSトレンド分析」と「需要予測」

一つがトレンド分析です。ツイッターやインスタグラムでたくさんアップされる写真を解析して、どんな色や柄、丈、素材、ディティールのアイテムが着られているのかを日々解析し、レポートとして提供しています。

二つ目が需要予測です。導入先から売り上げデータをいただいて、売れた商品の特徴、数を基にAIが解析し、「これだと5000枚ぐらい売れそうですね」とか、「Vネックにしたほうが、Uネックよりも売れますよ」というように、需要予測を立てられます。そこで適量生産量すれば、廃棄も売り逃しも抑えることができます。まだPOCの段階ですが、ファッション業界の方からは多くの期待を寄せられています。

業績、IPO計画

徐々にAIの導入企業が増えてきています。アパレル企業に課題をヒアリングさせていただきながら、サービスの改善に努めているところです。外部投資家にも入っていただいており、当然ながらIPO(新規株式公開)を目指しています。

ニューロープは、ニッセンが運営するアウトレットファッションのEC「BRANDELI(ブランデリ)」には類似画像プラグインや需要予測、メディアコマース構築サービス、「J’aDoRe JUN ONLINE」には画像の自動タグ付けサービスをそれぞれ提供している。

「今後もやはりファッションというキーワードは外せません。ファッション業界全体の進化に貢献し続けることで、社会全体への貢献にも繋がっていけば良いなと考えています。」インタビューの終わりに、林田氏は笑顔でこう語る。

ファッションに強いこだわりを持ち、業界が抱える社会問題にも対応するニューロープの今後の取り組みが注目される。

・2013年、起業や新規事業立ち上げを実践化する社会人向け講座「アントレプレナー・イノベーションキャンプ」(サイバーエージェント主催)で優勝。

・2014年4月、第三者割当増資での資金調達を発表。引受先はサイバーエージェント(東京都渋谷区)など。

・2018年3月、第三者割当増資で約5000万円を調達。引受先はReality Accelerator、大和企業投資、都築国際育英財団

・「週刊東洋経済 」(2018年7月14日号)の「すごいベンチャー100」に選出

・AI特化型インキュベーションプログラム「AI.Accelerator」(第1期、採択企業合計8社)に採択

・ICCサミット KYOTO 2018 スタートアップ・カタパルトに登壇し、同率準優勝。

・2019年10月、第三者割当増資で1億円を調達。引受先は大和企業投資 、ディノス・セシール 、 中京テレビ 、 Reality Accelerator。

(totalcount 2,994 回, dailycount 1回 , overallcount 16,613,735 回)

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